山の染め作業

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着物をひとつ作るのに、表地だけで13m弱の生地(幅は約一尺38センチ位)が必要です。ですからその13mの生地を染めるためには最低でも14mほどの「染め場」が必要ということになります。  新宿の工房では狭いので、帯(約5mの長さ)や訪問着のように一反の生地を分割して染めることはできますが、13メートルを一気に加工することはできません。
そこで不便ではあるのですが、山の工房に染め場を作ることにしました。
とは言っても元々「猫の額」のような土地。 山側を削り、谷側に盛り土をして、ということを程々にやりましてどうにかこうにかのスペースを確保。この「土地の造成」をやりすぎると、豪雨の時にサラッと流されてしまうので欲張りは禁物です。 そうは言っても何十年かにいっぺん級の集中豪雨に遭ったら、山の構造物は抗いようもありませんから「諦める」しかありません。 そして・・・この無謀とも言える計画に実際に着手し出したのが2001年、そのころはまだ反物の長さも幅も今ほど長く広くはありませんでした。
染め場は14メートルあれば十分と思っていたのでしたが、実際に稼働し出した2012年頃には少なくとも50センチは長さが長くなっていたのでした。というわけで使いづらく、仕方なく壁を打ち抜き、可能な限りの延長工事をしたのでした。変化しないと進化はないとは言うものの、一生そんなことをしています。



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シルクギャラリーの染めの大きな特徴のひとつが「ブルー」ですが、このブルーの染料がなかなかのジャジャ馬でして、コントロールに四苦八苦いたします。染料というのは染料の粉を水で溶かして沸騰させて完全に液体化して、染めの作業に使うのですが、この鮮やかな発色のブルーはものすごい微粒子で、言ってしまえば断りもなく勝手に染め場を彷徨う感じです。
どんなに注意していても濃い色に染めると、他に影響が出てしまうので、程々の濃度以上の色に染めるとしたら、このブルーだけの染め場が必要ではないか、というくらいです。
そこでソメリエは、大正時代に建てて放置されている廃屋を利用して「ブルーのためだけ」のスペースを作って作業しています。建物の中だけでなく、天気次第では屋外でも作業します。
いくつかそんな光景をお目にかけます。
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ドレスやストール 用の広幅生地も山ですとストレスなく染めることができます。
ただ、年間通して湿度が高いので、乾燥させるには「ジェットヒーター」と言われる、灯油を使った巨大なドライヤーのような器具の助けが必要です。
あと、多分物珍しいのでしょう、鳥や虫が寄ってきて生地の上にとまりたがるので困ります。
鳥の糞というのは言ってしまえばタンパク質の酵素ですから、草木染め的に反応してしまうことがあるのです。
お弟子が必死に作業している一コマもあります。 染めは体力です。
まさに「ブルーワーカー」


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滝暈し」と呼んでいる染めのやり方。1990年代からブルーのぼかしを駆使した着物や帯を染めてきたのですが、その滝のような染めを延長して、ついに13メートルの反物を通して染めることに成功しました。 14mの高さに滑車を設置して、染めながら徐々に上に上げていき最終的に13mの反物全てが、鯉のぼりの鯉のように空中に漂い、乾燥を待つのです。
ただ、地上は無風でも、10mの上空は結構風が渦巻いていて、風に引っ張られる凧のようにコントロール出来ないくらいバタバタ暴れ回ることもあり、染めにふさわしい日はなかなかありません。普通の暈し染めのように横に張って加工することは可能ですが、染料の自由に落下する動きを布に写し取るというやり方を13メートルの反物で行うのは、おそらく世界でここだけWW私一人だと思われます。 人手でコントロールされるのではなく、重力による偶然の力を借りて。   というのは普通そういう求めもないし必要もないということからそうなのですが。 兎も角試行錯誤、自然界の「滝」を着物や帯やドレスにするという試みはこれからも続きます。
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染めた生地は、160度以上の水蒸気の中に一時間ほど入れて、染料の分子と絹の繊維を化学的に結合させて、定着させるという工程が必須なのです。 そしてその工程を二度以上してから、水洗いしたり薬品処理したりして不純物を取り除き、最終的な仕上がりに至るわけです。
こういう工程は普通専門業者に依頼するのですが、わたしの場合、一度の染めでなく一回染めたものを定着させてから、もう一度或いはさらにもう一回加工するというようなことを繰り返しますので、業者さんとやりとりしている時間のロスが深刻で、結局できる範囲で自前で加工するに至ったのです。 「セイロ」のお化けのような器具を作りまして、業務用5升炊きの釜を使って蒸気を発生させています。  一番の大問題は染めた生地をどうやってこの「
蒸し器」に入れるかです。 普通の色ですと以下のような折り畳み式に「枠」に吊るして「棺桶」にお入りしていただけばいいのですが、「ブルー」に関してはそのくらいでは許して貰えません。
折りたたんだ生地の折れ目付近が濃くなってしまうのです。 普通の色ですと、生地のおさまりを入れ替えて、二度三度トライすると大丈夫なのですが、このジャジャ馬はいけません。
そこで苦肉の策として、折り曲げのない「エンドレス」の吊り下げ器具を作りました。
ホントに手のかかる「悪女」です。  こんなことに関わっていると一生を棒に振りますので、染色を志す若い方は決して真似などなさりませぬよう。どんなに時間があっても足りませんから。 ちなみにこの絹の生地を引っかけていく仕組みですが、普通の釘とかピンとかでは外れてしまいます。 釣り針、それもバーブレスという引っ掛かりのないタイプがびっくりするくらいジャストフィットです。 小生はownerというメーカーのSBL-31というのを使ってます。アマゾンで12本入¥324、コスパいいですが、入れ替え用の予備も作ると何百本も要ります。 繰り返しますが、こんなものを作ろうとはなさいませぬよう・・・
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自家製蒸し器(動画) 闇の中で働いています。 この下にガス釜が仕込まれていて、プロパンガスで燃焼させます。
炊飯器は温度や水の重さの変化で火加減されますが、その仕組みを分解して燃焼し続けるように改良して。
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